酵素模倣多電子移動電極触媒
金属酵素などの生体内分子は反応活性サイトの構造とその周辺環境を分子レベルで制御することで、様々な反応を高効率に駆動しており、その分子構造を模倣することで新たな電極触媒が得られます
現在、固体高分子形燃料電池(PEFC)の電極触媒として一般的に使用されているのは白金族金属(PGM)合金です。しかし、白金は地殻内の存在量が限られており、高価な貴金属であるために、燃料電池のグローバルな普及のためには、その代替材料の開発が不可欠です。カーボンアロイやFe配位カーボン材料、Co酸化物担持触媒の他、様々な材料開発が世界各地で競争的に行われています。また、酵素が駆動する反応は酸素還元反応以外にも多種多様に存在するため、多彩な機能を賦与できる可能性があります。
本研究では、生体内の呼吸鎖に存在する金属酵素であるシトクロムc酸化酵素(CcO)や漆に含まれるラッカーゼ(Lac)などの反応中心を模倣した多核金属錯体を電極触媒として利用することを指向しています。CcOの反応中心には銅(Cu)イオンと鉄(Fe)イオンが、Lacの反応中心にはCuイオンが複数含まれています。現在はLacの反応中心であるCu三核錯体構造に近づくため、A. Gewirthらが開発した複核Cu錯体を参考に、カーボンブラック担体表面に錯体結晶を微細に分散した触媒を合成し、その酸素還元反応(ORR)機構をシンクロトロン放射(SOR)光を用いたX線吸収微細構造分光(XAFS)法により評価しています。今後、より精密な活性構造の解析や、新規の配位子を活用することで、生体内金属酵素の反応中心構造と同様の原子配置あるいは、より高活性になる構造へと深化させてゆきます。
また、金属酵素が生体内で駆動する反応は様々ですが、その多くは多電子移動反応であり、いずれも地殻中にある豊富な金属を使って、高効率な反応を実現しています。将来的には、水の電気分解や窒素サイクル、二酸化炭素固定などに役立つ新たな電極触媒の開発へと展開します。